Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

モーリス・ルブラン『続813』堀口大學訳

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 彼はすすり泣いた、彼はわなないた、深い絶望感におそわれて、咲いたかと思うとその日の中(うち)に凋(しお)れてしまう遅咲きの花のように、彼の心は優しさで一杯だった。

 老女が跪いた、そしてわななく声で言った、(後略)

(p.346)

 

『813』の最後で捕まってしまったルパンだが、かくかくしかじかで、なんだかんだの末に、とりえあず牢からは脱出し、それでいよいよ真犯人&ケッセルバック計画の秘密に迫ろうとするのだけれど…。

 

ルパンが核心に迫れば迫るほど、話のスケールはどんどん巨大になり、そして同時に、ルパンは真犯人から静かに追い詰められてゆく。こんな感じに物語は展開する。

こんなの、面白いに決まってるじゃないですか。

面白すぎる…。

 

私なりに色々と予測しながら読み進めたが、すべて裏切られた。

私はですね、「あいつ」じゃなくて「あいつら」が怪しいと思ってましたからね。頓珍漢もいいところだったわけだけれども。

 

事件の核心に迫るような、いわばネタバレになるような感想は慎むべきだろう。

だって、何も知らないで読んだ方が絶対に面白いから。

なのでそういうのは避けるけれども、私が思ったのは、なぜルパンはこのケッセルバック計画にのめり込んだのか、ということである。

 

かなり魅力的な計画であることは間違いない。

魅力的、なんて言葉がちゃちに思えてしまうくらい、やばい、危険なそれは計画である。(ところで本作で頻出する「~で、~な、これは○○である」という訳文は味があって素晴らしいと思う。とても癖になるこれは文章である。)

でもなんかそういう「お宝」って、ルパンにとってそこまで執着の対象になりえるのかな? という疑念は、読んでいる間ずっと私の中にあった。

 

なので、最後の方を読んで、うわあそういうことか! と思った。

変装の名人のルパンは、自分の本名を忘れてしまうくらい(冗談だろうけど)あまたの名前を駆使し、信頼のおける手下たちもいるにはいるけれどそれは多額の報酬で結びついた関係でもあり、つまるところ、あまりにも平凡で安直な読解だけど彼は孤独を感じていたのかもしれない。

 

だからこそ彼は家族とか家庭とかそういうものを欲したのではないだろうか、自分が幸せになるために。そう考えると、あの浮かれ具合は物凄くせつない。離れを作って、ここに住むんだーみたいな。

その上で、重要な選択を迫られた時に、ルパンが選んだのは…。胸を打つ場面である。

 

しかし全然そんなしんみりした感じで終わらない、というかむしろルパンらしさ全開、ぶっちぎりで終わるのが、もう最高だと思いました。

 

そう、最高に面白いこれは小説である。

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おととい放送の『おしりたんてい』を観ていたら、とある仕掛けを解く答えの数字が「8」「1」「3」で、思わずにやりとした。