Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

手塚治虫『火の鳥1 黎明編』

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「わたしは あとなん年 生きられるだろう

 十年……? 五年かしら… それとも 三年………?

 死にたくない‥ ……死にたくない死にたくない!!

 火の鳥の血がほしい!! 永遠の命がほしい!!

 ほしい ほしい ほしい」

(p.233 ヒミコの嘆き)

 

どこかのおおきな火山が、大噴火するところから物語は始まる。

それはまるで、映画が上映される前のブザーのようでもあるし、

徒競走でのスタート合図のピストルのようでもあるし、

手塚治虫さんの「はじまるぞーうおーっ」という鬨の声のようでもある。

 

舞台は「黎明期」の日本。

神話に片足を突っ込んでいるような時代である。

その生き血を吸えば永遠の命を得られるという「火の鳥」をめぐる物語。

 

古事記』や『日本書紀』の世界(私はあんまり知らないけど)が、絶妙にリミックスされて描かれる。

ヒミコの弟はスサノオで、ニニギノミコトやタケル(たぶんヤマトタケル)も出てくる。

「黎明編」の主人公的な位置付けにいる男の子の名はイザ・ナギである。

 

ヒミコは天野岩戸みたいなところに閉じこもる。

時を同じくして日食が起こる。

民衆は怯える。ヒミコに救いを求める。

しかしこの時、岩戸のなかのヒミコも、物凄く日食を恐怖しているのが凄くいい。

 

イザ・ナギの義理の兄も、イザ・ナギも、火の鳥つながりで同じような最期を遂げる。

猿田彦も…。彼の子供を宿したウズメは生き延びた。

そして、タケルも…。彼はこれからどこへ向かうのだろう?

 

ところで、これだけ神話のキャラを素材にしていながら、「イザナミ」的なるものの気配がまったくないのはどういうことだろう。何かの伏線なのだろうか。つづきが気になるところだ。

あと小さい火の鳥がめちゃくちゃかわいい。