Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

手塚治虫『火の鳥3 ヤマト編・宇宙編』

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あなたの顔は永久に見にくく……

子子孫孫まで罪の刻印がきざまれるでしょう

(p.318)

 

『ヤマト編』は『黎明編』の続きの話になっている。

続きといっても、『黎明編』の最後に出てきたタケルという若者が、

かなり年老いて村の長老みたいな感じで登場するくらいの時間が経過している。

私はあのタケルがヤマトタケルになるのだろうと思ったけど、違った。ぜんぜん違った。まったくもって的外れだった。

ヤマトタケルになるのは、違う人物だった。

 

で、火の鳥が登場するわけなんだけれど、私は、今回の火の鳥の反応にけっこう戸惑った。

いや、そっちの味方するの!? しかも理由がそれ!? って感じなのである。

 

下心まる出しで近づいた彼を、火の鳥はなぜか受け入れる。

それがあまりにもすんなりと上手く行くため、これまでの犠牲者が浮かばれない。

音楽の力ということなのか。

そして、まあ、大変なことになるのだけれど。

歴史の運命に、火の鳥がだいぶ関与している。

 

『宇宙編』は2577年の物語。前作的位置づけの『未来編』が3404年の話なので、800年くらい時代をさかのぼっている。

「未来」も「過去」も、少しずつ「現在」に近づいている。

 

『宇宙編』、またなんだかんだの末に火の鳥が出てくるのかなー、と予断を持ちまくって読み始めたら、これまでとまったく違う、不気味な話で面白い!

閉ざされた宇宙船内で起きる殺人事件。

宇宙船が壊れたため、一人乗りの小型カプセルみたいなのでそれぞれ宇宙空間に脱出する船員たち。

そしてカプセル間での無線の会話…。

 

この無線で会話するシーンのコマ割りがすさまじい。

最初、読み方がわからなかったけど、いちど慣れると、この表現方法でもたらされる緊張感にやみつきになる。

暗闇が雄弁に物語る沈黙。すごい。ほんとすごい。やばい。

 

それで殺人事件の犯人は? どうなるんだろう?

ってところで、火の鳥登場。

「うわ、でた」と私は思いました。

そして、やはり、とても大変なことになる。

 

むかし、三遊亭圓朝の『真景累ヶ淵』という本を読んだことがある。

たしか、何世代にもわたって因果がめぐるみたいな、そういう話だったと思う。

あとは「おすもうさん最強!」という、そういう話でもある。

火の鳥』を読むと、『真景累ヶ淵』を思い出す。

 

しかし、親の因果が子に報い、が『真景累ヶ淵』だとしたら、

火の鳥』には、未来の因果も過去に報う、という独自のルールがある気がする。

なぜなら、『黎明編』で猿田彦の鼻がぶつぶつになってしまったのは、『宇宙編』での猿田の行いに原因があるらしいのである。ある意味、時空をこえての遡及処罰。

こういう、過去と未来がぐちゃぐちゃな感じに、私は興奮を覚える。

 

『ヤマト編』で、宴会場で踊りまくる人たちは、

『宇宙編』で、人工重力の中で踊り狂う人たちの遠い先祖であり、また遠い子孫でもあるのだろう。

 

『ヤマト編』の最後、土の中で生き埋めにされながら、声だけのやり取りをする場面は、

『宇宙編』での無線のやりとりに繋がっていて、また、ここでのやりとりが、『ヤマト編』の生き埋めにされた二人に繋がっていくのだろう。

そして未来で果たせなかった本懐を過去に遂げることができたとも言える。

過去も未来もごちゃごちゃになって、めぐる、めぐる、因果がめぐる。面白い!

 

ところで、人が、永遠、というものを求めたとき、

『ヤマト編』では埴輪に、

『宇宙編』では「ヤマタノオロチ多肉植物を足して2で割った」ような気味の悪いなんか変なの、に姿を変えているのは興味深い。

あと、罰として、セルフ輪廻転生の無限ループに陥った彼は…当然の仕打ちだと思います。

 

火の鳥』はこれから先、どうなるのだろう。

色んなことが形を変えて繰り返されて行くのだろうとは思うけど。

私の中では、火の鳥が「寺生まれのTさん」じみてきた感がある…。

 

ところで今日、ベニクラゲは死にそうになると赤ちゃんに戻る、ということがテレビで紹介されていて、驚いた。

ベニクラゲもまたセルフ輪廻転生の無限ループに陥っている!

宇宙編的!

ほんと、テレビの前で叫んだくらい私は驚いてしまったのだけれど、

息子によると、「こんなの常識」らしい。

「昔の人が井戸を使っていたのと同じくらい当たり前のこと」なのだそうだ。

また独特な例えを持ち出すね…。