ボエル・ヴェスティン『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』畑中麻紀+森下圭子訳
ムーミン小説を読み進めていくうちに、私は次第に、
こんな面白い小説を書くトーベ・ヤンソンとはどんな人なのだろうか、
と思うようになっていた。
各作品、比類なく独創的であり、かつ、毎回ちがった面白さがある。
シリーズを重ねていながら、それぞれの作品がお互い、どれとも似ていない。
マンネリズムの付け入る余地がないというか。いわゆる「お約束」的な展開はない。「お馴染み」なんて言葉も無縁だ。なんて格好いいんだろう。
物語はどれも面白い。ときおり笑わせられる。というか、けっこう笑わせられる。
しんみりする場面もある。もちろん、興奮する場面も。
とにかく感情を揺さぶられる。
なかでも『ムーミン谷の十一月』は衝撃的だった。
もう、圧倒されて、言い表しようがないんですよ。傑作としか言えない。でもその言葉だけでは物足りない。余りにも魅力的な作品。
私は本当に夢中になって読みまくった。
そして感想を語りまくった。でもまだ語り足りない。書ききれなかったことはたくさんある。
私は、トーベ・ヤンソンのことを知りたいという気持ちを抑えられなくなっていた。
それで本書を読み始めた。
彼女は筆まめだった。そして手紙やノート等をきちんと取っておく人だった。
そこには、その時々で思ったこと、悩んだこと、腹が立ったこと等々が、トーベ自身の手で克明に綴られている。それは、言うなれば、彼女の「肉声」が大量に残されているということでもある。
この本は、トーベ・ヤンソンのそんな「生の声」で構成されていると言ってよいだろう。
彼女の生い立ち以前から、晩年に至るまでが、彼女自身の言葉を参照しながら語られてゆく。仕事や、恋愛や、家族、戦争、あらゆることについて。
それはもう夢中になって読んだ。
ドキュメンタリー映画を観ているような感覚。
芸術を愛するひとりの人間の一生。そしてどの場面でも聞こえてくる、トーベの声、声、声…。
読み終えたとき、胸中に湧き上がるものは、寂しさもあるけれど、もっと彼女の作品に触れてみたいという好奇心である。
ムーミン以降に発表された小説も、どれも面白そうなものばかりだった。
絵本も読んでみたいなー。
映画も観たい。
つまるところ、トーベ・ヤンソンの作品(ムーミン小説)が大好きだった私が、この本を読んだら、トーベ・ヤンソン自身の大ファンになった、ということです。