Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

今村夏子『あひる』

母はお祈りに一時間近く費やした。 それなのに、のりたまは日増しに衰弱していった。 (文庫版p.18) のりたま、とは、「わたし」の家にやってきたあひるの名前だ。 名前の由来はわからない。 「わたし」の父が、働いていた頃の同僚の「新井さん」から譲り受け…

阿部和重『ブラック・チェンバー・ミュージック』

「それとあの――」 小首をかしげて「なんですか?」と訊いてきたハナコに対し、横口健二はこう伝えた。 「いつかまた、かならず会いましょう」 するとハナコは一拍おいてから、このように応じた。 「はい、かならずまた会いましょう」 この約束を果たせる見こ…

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』

すごい面白かった。 まず、「家族愛」みたいなものを全面に押し出してこないところがいい。 そういうのはもう食傷気味だからだ。 本作は子供たちが主役で、家族は文字通り「見守る」立場でのみ登場する。 それがすごい良かった。子供たちもみんな、かっこよ…

ドストエフスキー『悪霊』江川卓訳

それからどうなったかは、はっきりとは覚えていない。突然、人々がリーザをかつぎあげたことだけを覚えている。私は彼女の後から駆けだした。彼女はまだ息があったし、ことによると、意識も残っていたかもしれない。 (下巻 p.380-381) ロシアのとある町で…