Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』

すごい面白かった。

 

まず、「家族愛」みたいなものを全面に押し出してこないところがいい。

そういうのはもう食傷気味だからだ。

本作は子供たちが主役で、家族は文字通り「見守る」立場でのみ登場する。

それがすごい良かった。子供たちもみんな、かっこよかった。

終盤、ひろしとみさえが、阿月チシオからあることを問われて、

ふたりはしんのすけへの思いを口にする場面がある。私はここで泣いた。号泣した。

その言葉は私や妻が、そしておそらくは多くの親たちがいつも、我が子にに対して抱いているであろう気持ちの純粋な固まりのようなものだったからだ。

この場面でのひろしとみさえはたまらなくかっこいい。こういう「家族愛」の描き方って最高だと思った。

 

あと、しんのすけのお尻の描き方について。

クレヨンしんちゃん』における、しんのすけのお尻のスーパーインフレ化について私は「なんかちょっとなー」と思うところがあった。息を吐くように尻を出すというか、もう完全に風景と化していることに引っかかりを覚えていたのである。

でも本作でのしんのすけのお尻の描かれ方は、もはやホラーである。そして、真犯人の正体をひらめくときのしんのすけのお尻は、完全に一線を越えてしまっている。サイケデリックに広がるお尻の世界。わけがわからなくて素晴らしかった。

 

それと、阿月チシオ。この女性は、普段は端正な顔をしているんだけど、走る時の顔が変顔になることに物凄いコンプレックスを抱えている。大好きだった走ることを辞めてしまうくらいに。

その阿月チシオが、色々と感動的な紆余曲折を経て、ついに走りだす。すると敵側のドローンが複数台で彼女を取り囲み、それぞれのドローンが彼女の変顔を空中に投影させ、彼女をくじけさせようとする。しかし阿月チシオは、私は私が大好きだ、ということを叫びながら、自分の顔を映すドローンをすべて捕まえて、大好きと叫びながら顔をうずめて抱きしめる。そしてドローンは故障して爆発する…。

壮絶すぎて唖然としてしまった。さいわい、阿月チシオは顔が吹き飛んだりすることはなく、軽い怪我みたいに描かれていたけど、顔のコンプレックスを乗り越えた先での顔の喪失(してないけど)って、なんかちょっと凄みを感じる場面だった。

 

そして最終盤、正気に戻った風間君としんのすけがデッドヒートしているさなかに、風間君が、「友だち関係の未来について、とあるナイーブな思い」を叫ぶ。ここで叫ぶっていうのがぐっと来た。なぜなら本来それは叫ぶものではないというか、心の中でひっそりと感じる思いというか不安というか、小声で囁いてくるようなものだからだ。それを、風間君が叫ぶのである。劇中で色々あった風間君が、あそこであのセリフを叫ぶということに、私は物凄く心を揺さぶられた。そして、遠い遠い昔に、自分もそのような不安を感じたことがあったと思い出した。

その風間君に対して、しんのすけが叫び返したセリフが凄まじかった。

それは風間君や、かつて風間君と同じ思いを抱いたことのある私の目を覚ます言葉であり、

そして、私が息子や娘に対して無意識理に抱いていた「きっとこの子たちもそういう経験をするんだろうなー」という浅はかな達観を、子供たちにかわってしんのすけが吹き飛ばしてくれたように思えた。

しんのすけの言う通りだと思う。

この映画を観られて良かった。

そして私は東京事変の「閃光少女」を連想してしまい、久しぶりに聴き返してみたら、ちょっと冷静ではいられないくらい涙が溢れてきた。