Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

村上春樹

村上春樹『村上朝日堂 はいほー!』

その昔、私が犬と暮らしていたころ。 犬との散歩コースにある電柱に、看板が取り付けられていて、そこには、「お父さんお母さんに 言えないことは悪いこと」という標語が書かれていた。 それを見るたびに私は嫌な気持ちになっていた。ごく控えめに言って、く…

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』

「あんたをその何かにうまく結びつけるためにできるだけのことはやってみよう」と羊男は言った。「うまく行くかどうかはわからない。おいらも少し歳を取った。もう以前ほどの力はないかもしれない。どれだけあんたを助けてあげられるものか、おいらにもよく…

村上春樹『羊をめぐる冒険』

「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」 「羊?」 「うん」と言って彼女は半分ほど吸った煙草を僕に渡した。僕はそれを一口吸ってから灰皿につっこんで消した。「そして冒険がはじまるの」 (上巻 p.73) 主人公の「僕」は、離婚してから…

村上春樹『1973年のピンボール』

僕はピンボールの列を抜けて階段を上がり、レバー・スイッチを切った。まるで空気が抜けるようにピンボールの電気が消え、完全な沈黙と眠りがあたりを被った。再び倉庫を横切り、階段を上がり、電灯のスイッチを切って扉を後手に閉めるまでの長い時間、僕は…

村上春樹『風の歌を聴け』

「文章を書くたびにね、俺はその夏の午後と木の生い繁った古墳を思い出すんだ。そしてこう思う。蝉や蛙や蜘蛛や、そして夏草や風のために何かが書けたらどんなに素敵だろうってね。」 語り終えてしまうと鼠は首の後ろに両手を組んで、黙って空を眺めた。(p.1…