Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

松浦理英子『ヒカリ文集』

「偽物でも本物でも、上手な笑顔には優しさが宿っているじゃないですか。それで十分ですよ。あるのかないのか証明できなくて伝わりもしない本物の愛より、偽物であっても目に見える笑顔の方が人の役に立つと思います。(後略)」(p.230) ヒカリという名の女…

トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』山室静訳

悪気なく明るい、そういう人が世の中に一定数は存在している。 暴力的にほがらかで、情け容赦なく親切で、うんざりするほど優しい人たち。 彼らにうしろめたさを抱くようなナイーブな時期もかつての私にはあったが、きっと、ムーミントロールがヘムレンさん…

手塚治虫『火の鳥 別巻 ギリシャ・ローマ編』

この本には「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」「漫画少年版 黎明編」の4作品が収録されている。 火の鳥・エピソードゼロ、的な感じで私は楽しんだ。 ラブリーな火の鳥ちゃんの、キュートな物語だった。 ところで、妄想力を解き放ち、木を見て森を見…

手塚治虫『火の鳥11 太陽編 下』

そうだ 今の私はもう人間じゃない 肉体はもう死んだんだ (p.397) 残り数ページのところで、マリモという名の狼が、草原を疾走し、異空間のようなところに飛び込んで、狼化したスグルのもとへ辿り着く場面が見開きで描かれている。 私はそこからページをめく…

手塚治虫『火の鳥10 太陽編 上』

登り切るぞ バベルの塔め おれのロック・クライミングの力を見ろ!!(p.338) 舞台は中大兄皇子とか中臣鎌足が生きていた頃。だから600年代後半くらい。 主人公は狼マスクの男。 Wikipediaによると「古代日本最大の内乱」と呼ばれている「壬申の乱」にいたる…

トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の夏まつり』下村隆一訳

「あたい、もう、またねむくなっちゃったわ。いつも、ポケットの中が、いちばんよくねむれるの」 「そうかい。たいせつなのは、じぶんのしたいことを、じぶんで知ってるってことだよ」 スナフキンは、そういって、ちびのミイをポケットの中へいれてやりまし…

手塚治虫『火の鳥9 異形編・生命編』

あれは この場所が とざされた世界だからです ここでは…時間(とき)が狂い 逆行もいたします (p.15とp.111) 『異形編』の主人公はとある女性。 彼女は幼少期より父親から虐待を受けていた。 成長した彼女は、「父親の病気を治させない」ために、「父親の病…

手塚治虫『火の鳥8 乱世編 下・羽衣編』

わたしは遠い遠い国から来たといいましたね…… その国は じつをいうと 今から千五百年も未来の国なのですよ (『羽衣編』p.313) 高熱を出した平清盛は回復することなく、早々に没する。 そしてここから、混沌を極める乱世編の「本番」が始まると言っても良い…

手塚治虫『火の鳥7 乱世編 上』

この鳥は山鳥や 雉の仲間なんだわ 異国の鳥で 羽がきれいなだけで…… ただの鳥なんだわ たぶん (p.204) 舞台は1172年。 京都では、絶頂期にある平家一族が、ぶいぶい言わしている。 『平家物語』の世界である。 弁太、という素朴で怪力な木こりの男と、平清盛…

トーベ・ヤンソン『ムーミンパパの思い出』小野寺百合子訳

あのころは、世界はとっても大きくて、小さなものは、いまよりもっとかわいらしく、小さかったのです。わたしはそのほうがよっぽどすきです。わたしのいう意味がわかりますか。(p.117) このように、ムーミンパパはしばしば、読者に語りかける。 ここで想定さ…