Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

2026-01-01から1年間の記事一覧

町田康『入門 山頭火』

今から100年前の1926年、「分け入つても分け入つても青い山」という俳句が当時43歳の種田山頭火によって詠まれている。現在43歳の私はこの俳句を義務教育で習って知って、かつ、ずっと、頭の中に残っていた。 どうしてずっとこの句を記憶していた…

町田康『猫のエルは』絵:ヒグチユウコ

猫の集会に出くわしたことがあって、二十年くらい前、夜分にイオン、じゃなくて当時の呼称はJUSCO、で用を済ませて帰ろうとした時に、車を駐車場のどこに停めたか分からなくなって、第二駐車場、第三駐車場と駐車場を渡り歩いて自分の車を探しているうちに、…

町田康『東山道エンジェル紀行』絵:寺門孝之

辞書で調べると、旅、も、旅行、も同じ意味だけれども、ふたつには微妙な差異があると私は思う。 旅行っていうのは、予算、目的地、各所の出発&到着時刻、泊まる宿、お土産を買う場所、等を、ある程度あらかじめ定めておいて、わくわくしながら、ピクニック…

町田康『朝鮮漂流』

言葉って便利な道具だなと思う。自分の言いたいことや考えていることを、相手に伝えることができる。そして相手は、それを理解することができる。便利である。 最近だとツイッター(現X)では異国語は自動で翻訳されてタイムラインに表示されるし、インスタ…

町田康『口訳 太平記 ラブ&ピース』

激動の時代、といったことを表現する時にまず間違いなく用いられる言葉は「うねる」だと思う。時代のうねりに翻弄されて……みたいな。うねる、を辞書で調べると「緩く曲がりくねること」「大きく起伏する海の波」とあり、時代の揺れ動く感じがイメージしやす…

松尾芭蕉『新版 おくのほそ道』潁原退蔵・尾形仂=訳注

私は、『おくのほそ道』とは、俳句が好きなおじいさんが東北地方を愉快に旅した日々を綴ったエッセイ集のようなものだと思っていた。相方の曾良と一緒に、てんやわんやの珍道中。たまに俳句を詠む。そのような先入観で、なんかつまらなそう、と読まずにこれ…

島田雅彦『Ifの総て』

バタフライエフェクトなんていうロマンチックな言葉があってこれはたしか、エジプトで蝶が羽ばたけば北極で白くまがくしゃみする、というように一見すると関連がなさそうなできごとが実はしっかりと因果の糸で繋がっているという意味を持っていたと思う。風…

阿部和重『ABC戦争 plus 2 stories』

こうして憲法第九条と<戦争参加の要請>をめぐる二者択一が、「切実」な問題としてT校生たちに重くのしかかる。(p.82) もちろんぼくらは戦闘になど加わってはいけない、「参戦」してはいけないということはたしかです。ぼくらはぼくらで自立すればよいの…

ゴーゴリ『死せる魂』平井肇・横田瑞穂訳

この小説の主人公はチチコフという名前の四十代の太ったおじさんであり、彼が、ある意図を持って、とある県庁所在地を訪れるところから物語が始まる。 このおじさんの社交スキルは円熟の域に達しており、あらゆるお偉方を次々と虜にしていく。むろん読者も。…

岡倉覚三『茶の本』村岡博訳

茶、について知りたいと思った私は、茶のことを教えてくれる本を探して書店をうろついていたところ、この本を見つけた。手にとって表紙をめくって見ると、幕末の志士のごとき鋭い眼光を持った男性の巻頭グラビアがあり、著者だという。かっ、かっこいい、も…

安部公房『方舟さくら丸』

昔の偉い人が書いたセリフに「フェイクにはフェイクの良さがある」みたいなものがある、と専門家の人がラジオで話しているのを先日、耳にした私は、やっぱ偉い人っていうのは偉いなあ、しみじみとそう思った。引け目と居直りをシニカルにコーティングしたも…