Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

大須賀健『ブラックホールをのぞいてみたら』を読んで

大須賀健『ブラックホールをのぞいてみたら』

 

人間だれしも、成長の過程において、ブラックホールの謎めいた魅力に取りつかれ、惹かれつつも怯えるみたいな、そんな時期があるものである。

現在6歳の息子もそうで、昨年の夏あたりからブラックホールに吸い寄せられて、怖がりながらも「くわしく教えて」とせがんでくる。

 

しかし残念なことに自分はブラックホールにあまり詳しくなくて、それどころかさっぱり分からないというか、「黒くてさ、なんでも吸い込むんだよ」などとぼんやりとした雰囲気的なことしか息子に伝えられない。書店で子供向けの宇宙の本を読んだり、インターネットで検索して調べたりしても、いまいち分かりづらく、当然、自分がよく分かっていないことを息子に分かりやすく伝えられるはずもない。

 

「なんで黒いの?」「吸い込まれるとどうなるの?」「ブラックホールこわい」「おおきさはどれくらいなの?」「まっぷたつになるってどうして?」「こわい」「ブラックホールこわい」

 

息子の質問は尽きることがなく、俺の説明は要領を得ない。

「なんか重力がすごいんだって、だから何でも吸い込むんだって」

「どうしてそんなに重力がすごいの? それで吸い込まれるとどうなるの?」

「吸い込まれると、その、つぶれちゃうみたい」

「なんでつぶれるの? つぶれるとどうなるの?」

万事休す。あるいは、やんぬるかな。

困った。

 

そんな時、NHKラジオでブラックホールについての講座があった。

らじるらじる聴き逃しサービスで見つけたんだけれども。

渡りに船、って感じで全4回(だったと思う)の講座を聴いた。

信じられないくらい分かりやすかった。そして面白かった。

つぎつぎと出てくる例えがほんとうに分かりやすかった。

地球上でボールを上に投げたら、ある位置まで上がったらあとは落ちてくるように、ブラックホール上では上に向かった光も下に落ちてくる、といったように、なんかもう感覚的に仕組みが理解できるのである。すごい。

講座を繰り返し聴いて、覚えたことを息子に話すと、息子も満足してくれる。未就学児でもわかるくらい、講師の例えは凄まじかったのだ。

講師の名は「大須賀健」さんという方だった。

ネットで調べると、ブラックホールに関する本をたくさん出していた。

いつか読んでみようと思っていた。

で、読んだ。

 

すごい面白かった。

ラジオで話していたのは、この本の内容をだいぶ薄めたものだったのだと知った。

いわばあのラジオ講座の「原液」みたいなものがこの『ブラックホールをのぞいてみたら』である。濃い。しかし濃いからといって難解なのかというと決してそうではなく、むしろ図説なども交えてあるのでより理解しやすくなっている。

 

そして、本書における例えね。これもすごいですよ。冴えわたってますよ。執念すら感じる。

だって、ホーキング放射を説明するくだりで、冷凍餃子を持ちだすくらいですからね!

しかもそれが分かりやすいからすごい。

あとがき的な「おわりに」の章によれば、大須健さんはこの「わかりやすい例え」を生み出すのにかなり苦心されているようだった。講演とかで話していまいちだった例え話は書き直したりと、かなりの労力を注いだようで、そのおかげでこんなにわかりやすいブラックホールの本ができたということですね。面白かったです。