Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

渡辺浩弐『中野ブロードウェイ怪談』

 この本を私は中野ブロードウェイで購入している。明屋書店で、サイン入りだよ!

 昨秋、四十歳(当時)にして生まれて初めて一人で上京した。生活に支障をきたすレベルで方向音痴の私は、中野ブロードウェイにたどり着けるのか心配だったが、スマートフォンの地図アプリを駆使しまくることによって、無事にたどり着くことができた。

 しかし、たどり着くことはできたものの、どこからが中野ブロードウェイなのか分からなくて、あの辺いったいをうろうろと歩きまくった。

 路地裏に迷い込んだら、怖そうな中年カップルがSNS映えする写真を撮ろうとして必死になっているようなシチュエーションに出くわして、慌てて踵を返したりした。

 ようやく中野ブロードウェイの中に入ることができて、あとは、明屋書店に行くだけである。渡辺浩弐さんのサイン本がそこに入荷してあるということは書店の公式SNSで確認している。

 フロアマップみたいな冊子を見つけて、載っている地図を凝視しながら、三階の明屋書店を目指すのだけれども、道に迷う。いま自分がどこにいるかわからない。そもそも私は地図が読めない。でも、三階に行けばなんとかなるでしょう、と思っていたが、悲しいことに三階に行くことができない。

 それで迷って迷って迷いまくって、もしかして明屋書店は外にあるのではないかと思っていったん外に出て、それでお腹すいたから近くのお店でラーメン食べて、また中野ブロードウェイに戻って、レゴを扱ってる店を見つけたり、レゴのミニフィグが大量に並べられている店を見つけてじーっと見入ったりして、うろうろして足が棒になる頃に、ようやく明屋書店にたどり着いた。そうしてサイン入りの『中野ブロードウェイ怪談』を買った。

 

「この本は、ほとんど本当の話です。99.9%くらいは。」(p.7「まえがき」より)

 

 私は本当に品性が卑しい人間なので、そういうことを言われちゃうと、じゃあ、残りの0.1%は何なんだろう、そこを探しながら読んでみよう、と思ってしまうのである。

 中野ブロードウェイにまつわる都市伝説、噂話、怪異、陰謀…それらを取り上げ、実際のところはどうなのかと検証・調査していく。これがね、面白いんです。幽霊の正体見たり枯れ尾花、ではないけど、都市伝説や怪異が解きほぐされていくにしたがって、意外な(場合によっては拍子抜けするほどあっけない)「しくみ」が明らかになる。だから、最初は「こわいーこわいー」と各エピソードを読み始めるんだけれども、読み終わると、けっこう楽しい気持ちというか、ほっとした気持ちになる。「だよねーそういうもんだよねー」と。

 でも、ちょっと待って、と思う。楽しく読み終えたさっきの話、なんか変なとこなかった? という、かすかな違和感が残る。こんな噂がある、こんな目撃証言がある、といった怪異が、調べてみると実はこうだった、と、すっきりするエンディングを迎えているはずなのに、なんだろうこの違和感は…と思ってもう一度、読み返してみると、あれ、こんなところに真っ暗闇な隙間が…。私はその隙間に顔を近づけて覗いてみる。真っ暗で何も見えないが、何かがうごめいているような気もする。おそらく残りの0.1%は、この暗闇の向こうにある。おっかない本です。