Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

松尾潔『松尾潔のメロウな日々』

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超面白い。

R&B、ブラックミュージックに詳しくなくても絶対に楽しめる。

 

この本には、若かりし松尾潔さんが、音楽への情熱と愛と凄まじい行動力と見事な交渉術(痛い目も見る)でもって、自分のありかたに逡巡しつつとにかく文章を書きまくっていた日々、が綴られている。

まるで青春小説や冒険小説を読んでいるような気持ちになる。はらはらして、どきどきして、少しさびしい。

 

本書のハイライトはジェイムズ・ブラウンクインシー・ジョーンズへのインタビューだと思う。

もはや伝説と化している「松尾潔氏がクインシーに怒られた話」の一部始終が、詳細に書かれている。

ここでのクインシーの荒ぶった口調と、ジェームズ・ブラウンの丁寧な話しぶりは対照的である。もちろん両者ともにかっこいいんですよ。そして何故かうるっときてしまう。

 

 

本書の最初に収められている「1 旅立つまえに」を読んでいて、「あれ、俺これ読んだことある気がする」と思った。でもこの本を読んだのは初めてのはずで、気のせいかとも思っていたんだけど、この文章の最後に(2010年7月号)と表記があり、これは当時『bmr』に連載されていたということを表している。

そして、私はこの文章を書店で立ち読みしていたことを思い出した。そしてそれは2010年の7月頃だったのだろう。そう考えた瞬間、頭の中があの頃に飛んで不思議な気持ちになった。

私はこの前年に妻と結婚していた。そして『bmr』を立ち読みしたりしていた(買ったりもしてました)。

あの頃を思い出すと、不思議な感覚になる。

この感覚をメロウと呼んでも差しつかえあるまい。

本書には「変わりゆく、変わらないもの」という言葉が出てくる。とても素敵な考え方だと思う。

この約11年の間に私と妻は人の親になり、環境は変わったりもしたけど、ある意味においては我々はまったく変わっていないとも言える。

私が考える妻の魅力の大きなひとつに「不可解で謎めいているところ」があるのだけど、これもまったく変わっていない。というか知れば知るほど謎が深まるばかりである。

気取った言い方をすれば「神秘的」で、私になじんだ表現を使えば「オカルト」じみている妻との、結婚前から通算すると17年の付き合いに思いを馳せた春の夜、メロウな夜、でございます。

きっと『松尾潔のメロウな日々』に感化されたのだと思います。

とても素敵な本でした。