手塚治虫『火の鳥7 乱世編 上』
この鳥は山鳥や 雉の仲間なんだわ
異国の鳥で 羽がきれいなだけで……
ただの鳥なんだわ たぶん
(p.204)
舞台は1172年。
京都では、絶頂期にある平家一族が、ぶいぶい言わしている。
『平家物語』の世界である。
弁太、という素朴で怪力な木こりの男と、平清盛が本作の主役といえると思う。
火の鳥は、「火焔鳥」という伝説の鳥として語られている。
平清盛は老いていた。そう長く生きられないことも知っている。
自分が死ねば、平家は一気に凋落することも知っている。
だから絶対に死ぬわけにはいかない、と清盛は思う。
そして火焔鳥を追い求める。
歴史って、解釈や想像の余地がたくさんあるから面白い。
生き証人もいないわけだから、そこはもう自由にやっていいわけですよね。
やりすぎはいけないけど。あと嘘、大袈裟も。
『乱世編』では、その「歴史の余白」に火焔鳥を登場させ、物語を大胆に展開させる。それがすごい面白い。
清盛が日宋貿易に力を入れていたのは、宋から火焔鳥を仕入れるためだった、みたいな。
『平家物語』といえば琵琶で、べいいいいいんという琵琶の音色(振動)が、平家没落の悲し気で、ちょっと幽玄的なムードを演出していたわけだけど、
『乱世編』に琵琶は登場しない。
そのかわりに、ドンツクドンツクという太鼓の音が、冒頭と終盤のお祭りの場面に登場する。
琵琶と比べるとずいぶんとにぎやかでファンキーで人間味がある音色だと思う。
この音色の違いは、
『乱世編』での人間臭さ全開の憐れな平清盛の、
それぞれの描かれ方を象徴しているような気がする。
清盛が高熱でうなされるところで『乱世編・上』は終わる。
続きが気になります。
弁太と義経もね、どうなることやら。