Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

手塚治虫『火の鳥7 乱世編 上』

f:id:kazuki_shoji:20220206225733j:plain

この鳥は山鳥や 雉の仲間なんだわ

異国の鳥で 羽がきれいなだけで……

ただの鳥なんだわ たぶん

(p.204)

 

舞台は1172年。

京都では、絶頂期にある平家一族が、ぶいぶい言わしている。

平家物語』の世界である。

弁太、という素朴で怪力な木こりの男と、平清盛が本作の主役といえると思う。

火の鳥は、「火焔鳥」という伝説の鳥として語られている。

 

平清盛は老いていた。そう長く生きられないことも知っている。

自分が死ねば、平家は一気に凋落することも知っている。

だから絶対に死ぬわけにはいかない、と清盛は思う。

そして火焔鳥を追い求める。

 

歴史って、解釈や想像の余地がたくさんあるから面白い。

生き証人もいないわけだから、そこはもう自由にやっていいわけですよね。

やりすぎはいけないけど。あと嘘、大袈裟も。

『乱世編』では、その「歴史の余白」に火焔鳥を登場させ、物語を大胆に展開させる。それがすごい面白い。

清盛が日宋貿易に力を入れていたのは、宋から火焔鳥を仕入れるためだった、みたいな。

 

平家物語』といえば琵琶で、べいいいいいんという琵琶の音色(振動)が、平家没落の悲し気で、ちょっと幽玄的なムードを演出していたわけだけど、

『乱世編』に琵琶は登場しない。

そのかわりに、ドンツクドンツクという太鼓の音が、冒頭と終盤のお祭りの場面に登場する。

琵琶と比べるとずいぶんとにぎやかでファンキーで人間味がある音色だと思う。

 

この音色の違いは、

平家物語』で極悪人として描かれる平清盛と、

『乱世編』での人間臭さ全開の憐れな平清盛の、

それぞれの描かれ方を象徴しているような気がする。

 

清盛が高熱でうなされるところで『乱世編・上』は終わる。

続きが気になります。

弁太と義経もね、どうなることやら。