手塚治虫『火の鳥10 太陽編 上』
登り切るぞ バベルの塔め
おれのロック・クライミングの力を見ろ!!(p.338)
舞台は中大兄皇子とか中臣鎌足が生きていた頃。だから600年代後半くらい。
主人公は狼マスクの男。
Wikipediaによると「古代日本最大の内乱」と呼ばれている「壬申の乱」にいたるまでの不穏な背景が描かれている。
海を渡ってやって来た仏教と武力を利用して、支配力を強めようとする権力者と、それに反抗する、土着信仰に生きる人々たち。
両者の衝突は各地で起きるが、仏教勢力の圧倒的な武力の前ではなすすべもない。
このままでは日本は仏教勢力に暴力的に覆いつくされ、支配者に都合の良い教えをありがたく信仰する蒙昧な国民ばかりになってしまう。という風に描かれている。と私は思った。
はたして日本はどうなるのか。宗教戦争 in 古代日本。
「古代日本最大の内乱」の壬申の乱は、古代日本最大の宗教的対立だっのだ、と下巻で描かれるはずである。
主人公の狼マスク男は、信仰の押しつけはよくないと思う、というスタンスで頑張っているんだけど、深手を負ってしまい…。
私は本書を夢中で読んでいた。
そして真ん中あたりでふと、「あれ? 火の鳥は?」と思った。
実物であったり伝説の形であったりと、その登場の仕方は様々だけど、火の鳥さんはけっこう出たがりなところもあるみたいなので、これまでだったらとっくに登場しているはずである。
もしかして読み落としてたかも、と思って最初からぱらぱら見直してみても、火の鳥らしき姿(噂も含めて)は見当たらない。(追記:91ページにセリフで登場してました)
どういうことだろう。と思って読み進めていると…。
終盤になってついに火の鳥が登場した。
監禁(といってよいだろう)された状態で。
どうりで登場しないはずである。
ところで狼マスクの男は、夢(?)を通して2009年の未来を生きる男とリンクしている。
2009年の男は、上巻の最後で、監禁された火の鳥を奪うために(それは結果的には「救出」ということになるのだろうか)、超高層ビルの壁をよじ登る。
『黎明編』以来なんども繰り返されてきた「壁的なものをよじ登る」というイメージ。
注目しておきたいのは、『太陽編』でのこの「よじ登り」は、ビルの地下にいくためにはいったん最上階に潜入したほうが良い、ということでの「よじ登り」なのだという点である。
つまり「落ちる」ために「登る」という行為がなされているわけだが、これが何を意味するのかは、下巻を読んでから考えてみます。
沈黙を続けている火の鳥が大暴れする時ははたしてくるのか。
宗教戦争の行方は。
下巻が楽しみです。