Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

島田雅彦『自由人の祈り』

表向き美しい世の中を

本当に美しくするために

おまえは歌え。

(「自由人の祈り」より)

 

 本書に収録されている「またあした」という全文ひらがなの詩が私は大好きで、もう二十年以上の長きにわたって私を支えてくれている。

 もうほとんど背骨みたいなものである。

 ひねくれて純真で愚かで馬鹿で傷つきやすかった若かりし日の私の心を、この詩は慰撫し、そして活力を与えてくれた。

 でもひとつ分からないところがあって、それはこの詩の「ぼく」が、最後、「きみ」になって終わるところ。なんでいきなり「きみ」? という疑問はずっと持っていた。

 それで少し前になるけれども、当時小三だった息子の寝かしつけに何かいい本ないかなーと探していた時、この詩集を見つけ、こりゃあいい「またあした」を読んで聞かせようと思い、読んだ。

 それなりに生きづらさを抱えつつ、上手くいったり行かなかったりの日々を送る息子に、この詩が少しでも響いてくれたらうれしいなーと思いつつ涙ぐみながら読みすすめ、そして「ぼく」が「きみ」になる場面に差し掛かった時、「あ!」と思った。

 この詩は、かつての「ぼく」から今の「きみ」捧げられているのか、と思ったのだ。そういえばこの詩は元々、島田雅彦さんが高校生の合唱曲向けに書いたものだったはずだ。

 大人から子供へ。

 気がつくのにずいぶん時間が経ってしまったが、でも、このタイミングで気がついて良かったと思う。今の私と息子のために書かれた詩だ、とさえ思えたので。優しい詩。

 今のところ、島田雅彦さんの詩集はこの一冊だけのはず。もっと読みたいな。