Pithecanthropus Erectus

読んだ本などの感想を書いてます。

トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』冨原眞弓訳

とにかく、これはわたしがはじめて書いた、ハッピーエンドのお話なのです!(「序文」より)

 

 ムーミン小説の第一作目にあたる『小さなトロールと大きな洪水』はきらめきにみちている。ちょっぴり不気味で、だいぶ不思議な物語空間を、ムーミントロールとママが冒険する。もちろん読者の私もいっしょに冒険。楽しいよ。個人的には、本作のムーミントロールが一番かわいらしいと思った。

 

 本作以降に発表された8冊の小説を読み終えている私は、彼らとの冒険を楽しみつつも、「あ、このイメージはあの作品のあそこに出てくるやつだ」的な箇所を見つけてはひそかに興奮していた。

 たとえば、「百歳近くになってメガネをなくしたコウノトリのおじいさん」が本作には登場するけど、このキャラクターは、『ムーミン谷の十一月』に出てくる「スクルッタおじさん」の設定を彷彿とさせる、記憶に新しいところでいうと。そういう意味でも、この作品には、以降の作品の原石(というか原材料というか)が詰め込まれているともいえる。ビッグバン直後の宇宙のような小説。

 

 ムーミン一家が、ムーミン谷を訪れるところで物語は終わる。ママのセリフの気高さに胸を打たれる。これからここで、たくさんの物語が生まれていく。

 本作は、ほかのムーミン小説も読み返したくなる、そんな素敵な一冊だと思う。